WORKSHOP REPORTワークショップレポート

WORKSHOP REPORTワークショップレポート

2025-01-15

2025年1月11日(土)から13日(月)、次世代を担う高校生たちが、京都市の具体的な社会課題に向き合い、自らの手で解決策を模索する3日間の特別なワークショップが実施されました。創造力を引き出す「レゴ®シリアスプレイ®(LSP)」と、スマホアプリ開発を可能にする「MIT App Inventor」を活用し、社会課題の本質を深く掘り下げながら、斬新なアイデアを具現化する機会を提供しました。

本ワークショップの最大の特徴は、全員が主体的に議論に参加し、意見を共有しながら合意形成を図るLSPの活用と、デザイン思考やペルソナ設定を通じて課題を多角的に捉える手法の導入です。12名の生徒たちは、地域の抱える課題に自分ごととして向き合いながら、自分たちの創造力とテクノロジーを融合させ、スマホアプリという形で解決策を生み出すプロセスを体験しました。

このワークショップは、ただ学ぶだけではなく、具体的な成果を出すことを目指した取り組みであり、生徒たちは京都市の未来を描きつつ、自らの成長を実感する3日間となりました。

ワークショップの成功を支えた要因

このワークショップが効果を上げた最大のポイントは、何よりもまず、高い意識と意欲を持った生徒たちが参加してくれたことです。優秀なだけではなく、自ら成長を求めて貪欲に学び、自由に表現できる素晴らしい皆さんに参加いただきました。そして彼らを全力で応援してくださった先生方の熱意にあります。特に、先生方が生徒たちと同じ目線・同じ立場でワークショップに積極的に参加し、一緒に課題に取り組んでいただいたことが、学びの深さと充実感を大きく高めました。

さらに、「レゴ®シリアスプレイ®(LSP)」という手法の活用と、事前に学校側と綿密な打ち合わせを行い、プログラム設計を徹底した点も成功の要因です。LSPは、全員の意見を誰一人取り残すことなく引き出し、共有することで合意形成を促進します。このプロセスが、生徒たちに驚きと感動を与え、チーム全体の協働を促進しました。

このワークショップでは全体設計と当日のファシリテーションを弊社取締役の石原正雄が担当し、アプリ作成については MITが主催するハッカソンで個人、グループの入賞を果たした武居玲さんがチューターとして生徒たちを支援しました。

 

1日目:社会変革を実現する「イノベーション」とは何かを学ぶ

ワークショップの初日では、まずレゴシリアスプレイメソッドを使った話し合いの方法に慣れる演習からスタートしました。楽しみながら、一人一人が自分の考えを安全に話し合うことを実感しました。

次に「イノベーションとは何か」という根本的な問いを深く掘り下げました。冒頭では、参加者それぞれが持つ「イノベーション」に対するイメージや考え方を共有することからスタートしました。その際、LSPを活用し、自分の考えをレゴブロックを使って形にしてもらうことで、具体的で視覚的な表現を生み出しました。

生徒たちは、初めてのLSP体験に最初は戸惑いながらも、次第に自分のアイデアを形にする楽しさを発見していきました。また、LSPを通じて、単なる議論では得られない深い洞察を得ることができました。「漸進的イノベーション」や「破壊的イノベーション」という伝統的なイノベーションの概念を学びました。続いて MITスローンスクールのデビッド・ロバートソンが提唱する「第3のイノベーション」アプローチを学び、小さなアイデアのエコシステム構築といいう方法がスマホアプリのデザインと親和性があることも知りました。

後半では京都市が抱える具体的な社会課題(人口減少と高齢化、産業の停滞、交通環境の改善など)に目を向け、「自分はその課題をなぜ解決したいのか?」についてレゴ作品を通じて表現し、グループ内で共有しました。社会課題を解決する当事者として自分がそうしたい理由を突き詰めてもらいました。この活動を通じて、生徒たちは特定の社会課題の本質に触れ、自分たちの意見を形にすることで、それを他者と共有し、議論を深める大切さを学びました。

初日は、LSPを活用したこれらのプロセスが、単なる知識のインプットにとどまらず、生徒たち自身の考えを掘り下げ、主体的に参加する意欲を引き出すきっかけとなりました。

 

 

2日目:未来の京都市を描く

2日目は、「10年後の京都」を想像し、各人が見たい、体験したい、暮らしてみたい未来の京都市とはどんなものかをレゴ作品で表現するところからスタートしました。そしてLSPの「共有プロセス」により各人の実現した未来の京都市を持ち寄って全員でコミットできる「私たちが実現したい未来の京都市」を表現しました。

各グループでは人々が安心して移動できる近未来型交通システムや、文化と再生可能エネルギーが共存する街など、さまざまな未来像が描かれました。

この先はデザイン思考のアプローチを用いて共感、定義、概念化、プロトタイピングというプロセスをたどりながら実際に動くスマホアプリの開発に進みました。

最初に「ペルソナ設定」を行いました。具体的には以下のようなペルソナが設定されました:

  • 伝統産業の4代目社長:職人を確保できず、伝統技術の継承に悩んでいる。
  • 西賀茂に住む30代会社員:通勤時の渋滞や公共交通機関の不便さに不満を感じている。
  • 京都在住10年目のサウジアラビア出身の男性:日本文化に触れたいが、言語の壁で地域とのつながりを感じられない。
  • 京都観光に来たフランス人観光客:観光地の文化的背景を理解したいが、適切な情報が見つからない。

それぞれのペルソナを通じて、「何になぜ悩んでいるのか」「どのようなスマホアプリの機能が設定したペルソナのどの課題の解決策となるか」について議論を重ねました。このプロセスを通じて、生徒たちは具体的な課題と解決策を深く掘り下げて考える経験を積むことができました。

午後には、MIT App Inventorを使ったスマホアプリ開発の基礎を学び、いくつかの応用課題にも取り組みました。

 

 

3日目:スマホアプリを完成させる

3日目は各グループが考えだしたソリューションアイデアをスマホ画面に実装するところからスタートしました。画面デザインや画面遷移の設計は MIT流のカードシステムで行いました。

最終的にはグループごとに開発を進め、以下のようなユニークなアプリが完成しました:

  • 『京都交通マップ 極』:公共交通機関の情報を一括管理し、多言語翻訳機能やヘルスケア連動を搭載。
  • 『組合マッチング』:業者と顧客を結びつける仕事特化型のコミュニケーションツール。
  • Neo City Kyoto GPT:AIを活用し、京都特化型の道案内とレビュー情報を提供。
  • Okoshiyasu 京』:外国人観光客向けのAI活用文化理解促進アプリ。

LSPのプロセスで生まれた深い洞察が、各チームのアプリデザインに反映され、独創的で実用的なアイデアが多く見られました。

 

 

MIT App Inventorの可能性

MIT App Inventorは、プログラミング初心者でも直感的にアプリを開発できるツールです。このワークショップを通じて、参加者は単なる技術習得だけでなく、自分たちの考えやアイデアを形にする力を実感しました。

MIT App InventorとLSPの組み合わせは、テクノロジーの活用と創造力の発揮を両立させ、参加者が自己表現を通じて成長する貴重な体験を提供しました。

 

 

3日間を終えて

参加した高校生からは、以下のような感想が寄せられました:

  • 「アプリ開発に興味があったが、それ以上にLSPを使った議論の面白さに気づけた。」
  • 「他の参加者のアイデアに感銘を受け、もっと学びたいという意欲が湧いた。」
  • 「頭を使い、自分の成長を実感できた3日間だった。」

これらの感想からも、LSPが参加者の創造性や自己表現力を引き出し、学びの深さを実感させたことがうかがえます。また、LSPを通じて生徒たちが体験した「共有」のプロセスは、議論の質を高め、全員が主体的に参加する環境を構築しました。

3日間のワークショップを通じて、生徒たちが課題解決のプロセスやITテクノロジーの可能性を実感し、未来への一歩を踏み出す手助けができたことを嬉しく思います。

今後もこのような機会を提供し、若者たちの創造力を育む活動を続けてまいります。このプログラムの実現と素晴らしい3日間の体験創りにご協力いただいた京都市立紫野高等学校の小林教諭をはじめ、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。